朝から降っていた冷たい雨は夕前には止んでいたが、まだあちらこちらにその跡を残していた。冬の陽はとうに暮れ、寒さの増した街に仕事帰りの人達が行き交う。 駅の改札口に続く階段が見えるそこは、彼女達が集まる、いわばたまり場のような場所だった。見るともなしに眺めている目の前を、黒いパンプスが上っていく。 「あっ…」 手から転がり落ちた物を、小走りに追いかける。拾い上げて顔を上げた彼女は、白と黒が交差する瞬間を見た。 悲鳴とそれに続く鈍い音が、暮れ落ちる街に響く。 「救急車だ、早く!」 階段の一番下のタイルを真っ赤に染めたその人には、もはや回りの喧騒は届かない。力を無くしていく眼の端が、白い何かを捉える。それが、最期の意識となった。 『運命の輪』がゆっくりと回り始めていた。 |