花 見 月 「…で、こうなるんだよ。分かった?サスケ」 幸村はそう言いながら、すぐ横に座っているサスケの顔を覗き込んだ。案の定、彼の顔はぶーたれている。くすっと幸村は笑った。 「なんだよッ」 お約束のように、サスケがそれに噛みつく。今日は幸村から逃げ損ねてしまい、嫌いな勉強をさせられているというのに、その上笑われたとあっては堪らない…と思うのは、サスケ的には当然のことだった。 「もうイヤだって、顔に書いてあるよ」 幸村の指が、つんつんと軽くサスケのおでこをつつく。サスケは頭を乱暴に振って、幸村を見る目つきをきつくした。 「イヤだってのをやらせてんのは、お前だろ」 サスケ本人はマジで睨んでいるつもりなのだが、幸村には拗ねた顔もかわいいっ!としか見えない。この主君に対しては、効果がないどころでなく逆効果としか言えなかった。サスケが幸村に勝てる日は、まだまだ遥か先のようである。 「そうだね。じゃあ、今日はここで終わりにしよう」 サスケの臨界点を、幸村はきっちりと把握していた。引くところを間違えて本格的に拗ねさせてはいけない。 幸村は、サスケがかわいいくてしかたなかった。だから、なにかにつけて構いまくってしまうのだ。ぎゅーっと抱きしめて、自分がどれだけサスケを大事に思っているかを、言葉だけでなく自分の全てで伝えたいと思う。 勉強から解放されるとあって、サスケはホッとした顔を露にして立ち上がった。 「じゃあ、行くぜ」 「待ってよ、サスケ。気が早いなぁ」 さっさとこの勉強部屋から立ち去ろうとするサスケに、幸村は柔らかく微笑みながらその手を取って引き止める。サスケは振り払うわけにもいかず、訝しげに尋ねた。 「なんだよ、もういいんだろ」 「一緒にお昼ご飯食べようよ、ねっ」 「お前、一人で飯も食えねぇのかよ」 「えー、だってサスケと一緒に食べたいんだもん」 とても37歳になった男とは思えないセリフである。 にこにこにこ 必殺技・幸村の微笑が放たれた。いい加減慣れているはずなのだが、サスケのみならず十勇士達は皆、幸村のそれには弱かった。 「……しかたねぇから、一緒に食ってやる」 「ありがとう、サスケ」 幸村は心から微笑んでサスケを見つめる。それはサスケを惹きつけて止まない暖かなものだった。無意識に、サスケは頬を薄紅に染めていた。 「うん」 サスケは小さくそう応えた。 幸村の腕がくいっとサスケを引き寄せる。桜色のその頬に、幸村は唇で触れた。 「…幸村」 己の名を呼ぶ声に誘われて、そっと唇を触れ合わせる。 「好きだよ、サスケ。だから、ずっとボクの側にいて…」 耳元に囁かれた言葉に、サスケの頬の紅は色を増して、真っ赤になっていった。幸村の腕に抱かれた今の状態では、どこにも逃げようがない。 しばしの後で、サスケがこくんと大きく頷いて応えた。 もう一度接吻を贈った後で、少し名残惜しく思いながら、幸村はサスケから腕を解く。幸村から身を離してもまだ、サスケの頬は赤いままだった。 「じゃあ、お昼ご飯はお弁当にしてもらって、外で食べよう」 「外って、どこで?」 「ほら、大きな桜の木があるでしょ。今日は天気もいいから、お花見には最高だね」 大きな桜と言われて、サスケはあれかと思い浮かべる。あの木はもう満開に近いだろう。 「行くんなら、さっさと支度して行こうぜ」 にっと笑うサスケに、幸村もにっこりと笑った。 「小助にお弁当頼まないとね。サスケもおいで」 サスケの手を引いて、ぱたぱたと幸村は台所へと駆けていった。 それから数十分後、小助に作ってもらったお弁当を持って、二人はお花見へと出かけて行った。サスケは一緒に行かないかと小助を誘ったのだが、幸村の想いを理解している彼女は、さり気なく予定を述べて断ったのだった。 自分達が『秘密の公認』カップルと十勇士内で認められていることを、サスケだけが知らなかった。
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